こんにちは、母子保健班の佐藤、杉山、手塚、金です。
私たちは、地域保健所は母子保健分野において、アクセス、コスト、サービスの3つの観点から役割を果たしているかというテーマのもと、インドネシアで現地調査を行いました。
9月4日、水感染症班、防災班と一緒にジャカルタ市内にあるインドネシア保健省を訪問しました。ここでは、インドネシア政府が地域保健所にどのように介入しているかを伺いました。
保健省の取り組みとして、保健所へのアクセスの障壁を取り除くために、例えば離島へは、ヘリコプターを使って保健所に行けるようなサービスの提供を行っているそうです。
多くの島で成り立っているインドネシアにとって大変重要なサービスだと思いました。
コスト面では、2014年から導入されたインドネシアの国民皆保険制度について伺いました。妊娠から分娩した後の検診まで、ほとんどの母子保健サービスが、国民皆保険の適応対象となっていることがわかりました。
また、都市と農村では保険についての情報の得やすさに差があるため、加入率にも差があることがわかりました。この他に、保険に入っていることが一種のステータスになるということも伺いました。
サービス面では、「クオリティ」に課題があると聞きました。地域保健所で働く医師や助産師の優秀な人材の確保が必要ですが、実際にはとても不足しています。このため保健省では、優秀な医師や助産師を雇用するための人材育成を行っています。
9月8~9日は、水感染症班と教育班と一緒にセラン県にある3つの地域保健所に伺いました。
まず、8日には風邪をひいた人から妊産婦の検診まで、幅広い医療サービスの提供を行う「Puskesmas」を訪れました。
ここでは、医療従事者や清掃員など、合わせて約40人が働いています。医師は2人、看護師は9人、助産師は20人います。
保健所で働く人の数は足りておらず、特に「PONED Midwife」という、緊急産科ケアを行うことができる助産師の数が不足しているということを伺いました。このような状況から、妊産婦が緊急事態に陥った時に助けられる助産師の数が少ないため、インドネシアの妊産婦死亡率が高い一因になっているのではないかと考えました。
またその後、母親学級を見学しました。母親学級とは、村の助産師が、妊産婦、もしくは乳幼児を連れた妊産婦を集めてレクチャーするといったものです。私たちが見たのは、乳幼児を連れた母親を対象としたレクチャーでした。
子供が体調を崩した時の対処法や、母乳の与える時期や乳幼児の身体によい、栄養のある食べ物などについて教えていました。
次に、Poskesdesを見学しました。幅広い医療サービスを提供しているPuskesmasに対し、Poskesdesは母子保健分野に特化しており、助産師が常駐しています。家の一部に小さな診察室があり、そこには医薬品や医療機器が備えられていました。
また、助産師が妊産婦の住む家に出向いて、カウンセリング検診や、避妊具を配るなどの家族計画を行うこともわかりました。 紹介した母親学級でレクチャーしていた助産師は、まさにPoskesdesの助産師でした。
9月9日は、8日に訪れた保健所からは車で20分ほど離れた地域保健所「Posyandu」を訪れました。
Posyanduでは、主に地域のヘルスボランティアや助産師によって乳幼児健診や妊産婦検診が行われています。
私たちは、乳幼児健診の様子を見学しました。子供を連れた母親は母子健康手帳を持って検診に並び、にぎやかで楽しそうに村のヘルスボランティアと話していました。
検診には5つのステップがあり
①受付②身長③体重④カウンセリング⑤ワクチンの順番に行われていました。
身長を測るものについては2種類あり、木箱で作られた寝台式乳幼児身長計と、立つことができる子供にはメジャーを使って測る測定器がありました。
また、検診の結果が良くなかった妊産婦や母親には、後日助産師が家を訪問して薬の処方や、カウンセリングを行います。
そして最後に、妊産婦、母親、ヘルスボランティアにインタビューをしました。
妊産婦、母親へのインタビューでは、検診について伺いました。
検診を受診する場所は母親によって異なりますが、それぞれが利用している保健所のサービスに満足しているということがわかりました。
また、国民皆保険に加入しているかどうかを尋ねると、約半分の方が加入しておらず、その背景に「加入しなくても医療費がとても安いため入る必要性を感じない」「保険の申し込みの手続きが面倒である」という意見がありました。
また、自宅分娩をする妊産婦も目立ちました。
この他、自宅分娩か医療施設での分娩かに関係なく、多くの女性がハイリスク出産を経験したことがある、という事実に驚きました。
今回の現地調査を通して、妊産婦や母親は自宅から近くて医療費も安い地域保健所に対して満足していることがわかりました。しかし、分娩をする場所を問わず、ハイリスク出産を経験したことがある妊産婦の数が多かったことから、保健省でも伺ったように、「クオリティ面で課題がある」と思います。
まさに、「医師や助産師の人材育成に力をいれるべきだ」という、保健省が持つ、保健所に対する課題と結びつくのではないかと思いました。この点について、地域保健所に求められる役割を考察するにあたって注目すべきだと思いました。
最後に、今回私たち母子保健班の研究にご協力いただいた、HANDSの篠原様、JOICFPの石井様、ピープルズ・ホープ・ジャパンの中田様、インドネシア保健省のDr.Imuran、Dr.Guntur、そしてProject HopeのDr.Nasarddin、Ms.Nurhayati、訪問したバロス地域保健所で働く皆様とインタビューに答えてくださった妊産婦、母親、すべての方々に心より御礼申し上げます。
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